遠隔点呼の実務ポイントと制度の全体像

(貨物運送事業者向け/行政書士がわかりやすく解説)
近年、運送業界では「働き方改革」や「2024年問題」への対応が急務となり、国土交通省でも運行管理の高度化やデジタル化を強力に進めています。その中でも特に注目を集めているのが、遠隔点呼の制度化です。
遠隔点呼は、これまで対面で実施することが原則であった点呼業務を、IT機器を活用することで、運転者と運行管理者が離れた場所にいても実施できるようにした仕組みです。適切な機器や通信環境が整っていれば、外出先や待機場所、車内からでも点呼が可能となり、現場の負担軽減と業務効率化に大きく寄与します。
本記事では、国土交通省が公表しているパンフレットや告示、運用通知の内容を踏まえつつ、遠隔点呼の全体像と実務で押さえるべきポイントを、運送事業者向けに分かりやすくまとめました。
目次
遠隔点呼とは何か
遠隔点呼とは、映像・音声を用いた双方向通信システムを利用し、離れた場所にいる運行管理者と運転者が対面と同等の内容で点呼を行う方法のことです。
国土交通省の資料では「ビデオ通話のような形」で実施すると表現されていますが、単なるオンライン会議ツールとは異なり、
- 本人確認(生体認証)
- アルコールチェックの記録
- 日常点検や健康状態の確認
- 点呼記録の自動保存
など、運行管理規則に定められている点呼基準を満たすための機能が必須となります。
デジタル化によって業務が簡略化される一方、要件を満たさなければ「点呼不成立」となるため、制度の正しい理解が不可欠です。
遠隔点呼でできること・できないこと
運行管理者が点呼を実施できる場所
運行管理者は、所属する営業所または車庫にいる必要があります。
自宅や出先では原則実施できません。
運転者が点呼を受けられる場所
以下の場所が認められています。
- 所属する営業所・車庫
- 事業用自動車内
- 宿泊施設
- 待合所
- これらに類する場所(会社が事前に決めた場所)
つまり、運転者側は比較的柔軟に対応できますが、「会社が定めた場所で実施する」ということが重要です。
遠隔点呼の実施フロー
国交省の資料を整理すると、遠隔点呼は大きく3つの工程に分かれます。
①事前準備
- 運行管理者が点呼予定をシステムに登録
- 運転者情報・車両情報の確認
- 使用機器の準備
②点呼の実施
- 運転者がシステムから点呼依頼
- 映像・音声を通じて運行管理者と対話
- 健康状態・日常点検・酒気帯び等の確認
- アルコール測定→静止画または動画の記録
- 必要な指示(経路・天候・運行中の注意事項等)
③点呼結果の確認と保存
- システムに自動記録
- 運行管理者が内容を確認
- 点呼記録を1年間保存(貨物の場合)
対面点呼と同等以上の安全確保が求められるため、記録の自動保存や追跡性(改ざん履歴)が残るかどうかは最重要ポイントになります。
遠隔点呼機器の必須要件
国交省が示している要件は非常に明確で、以下が“必須条件”となります。
①映像・音声で運転者の状態を明確に把握できる
- 顔色
- 表情
- 身体の動き(全身が映る角度)
- 疲労・睡眠不足・疾病の兆候
暗い場所・画質の低いカメラでは点呼不成立となる可能性があります。
②生体認証による本人確認
- 顔認証
- 指紋認証
- 手の静脈等
IDとパスワードのみの認証はNGです。
なりすまし防止が徹底されている必要があります。
③アルコール検知器との連動
- 測定結果のデータ
- 測定中の静止画・動画
- 測定者本人である証明
この3点がセットで記録されなければ点呼として認められません。
④健康状態・日常点検の記録
運行管理規則に定められたチェック項目(疾病・疲労・睡眠不足・日常点検)が入力でき、それが記録として残るものが必要です。
点呼記録に必要な項目
点呼記録は貨物の場合1年間保存が義務づけられています。
必要な記録は以下のとおりです。
- 点呼日時
- 点呼方法(遠隔点呼)
- 運行管理者の氏名
- 運転者の氏名
- 車両番号
- アルコール測定結果と関連静止画/動画
- 健康状態
- 日常点検結果
- 指示事項
- 業務不可の場合の理由
- 交替運転者への通知内容
また、システム上で修正ができる場合は、修正履歴が残ることが必須です。
会社が整備しておくべき事項
遠隔点呼は機器だけ導入すれば良いわけではありません。
制度運用のために、以下の体制整備が必要です。
①運行管理規程の改訂
- 遠隔点呼の実施方法
- トラブル時の代替措置
- 使用機器の種類
- 点呼場所の定め
これを規程に明記しなければ運輸局の指導対象になります。
②点呼場所の環境整備
- 明るさの確保
- 全身が映るカメラ配置
- 通信の安定化
多くの事業者が見落とす部分です。
③アルコール検知器とカメラの連動確認
動画が残っていない場合→点呼無効扱い
と判断されるケースもあります。
遠隔点呼を始めるための手続き
同一会社内で実施する場合
→ 遠隔点呼の届出が必要(実施の10日前まで)
提出先:各運輸支局
事業者間で実施する場合(受委託)
→ 管理受委託の許可申請が必要(実施の2か月前まで)
導入の際は手続き漏れがないよう注意が必要です。
実務上の注意点(行政書士としての経験も踏まえて)
実際に多くの運送事業者と関わる中で、特に注意すべきポイントは次の通りです。
①運転者の点呼場所は“会社が事前に決めた場所”以外NG
コンビニ駐車場や暗い場所など、
「顔がはっきり映らない場所」は不適切です。
②通信トラブル時の代替措置を必ず準備
- 電話点呼
- 対面点呼
など、適切な代替手段を規程に定めておく必要があります。
③記録の保存・追跡性
運輸局は「改ざん不能性」を非常に重視しています。
紙への書き写しではなく、システム上の保存を必ず確保してください。
まとめ
遠隔点呼は、運行管理の効率化・質の向上を実現できる重要な制度です。一方で、機器の要件や記録保存、運行管理規程の整備など、細かなルールを満たさなければ点呼として成立しません。
制度を正しく理解して導入すれば、
- 拠点が複数ある会社
- 乗務員が遠方で待機することが多い会社
- 24時間運行の会社
など、多くの事業者にとって大きなメリットがあります。
自社で導入すべきか、どの機器を選定するべきか、届出が必要かなど、迷う点があれば、専門家に相談していただくことでスムーズに進められます。

